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「伝える」だけの広告は終焉?デジタル化が加速するニューノーマル時代のマーケティング

スマートフォンの普及、SNSの台頭、動画配信サービス、LINEなどのコミュニケーションツールの発展を通して、私たちを取り巻くコミュニケーション環境は大きく変化しました。

そんな新時代のコミュニケーションのあり方を考えるべく、この度、弊社では「Social談」として二日間に渡る大規模なオンラインイベントを開催。さまざまな分野で活躍される有識者やクリエイターお呼びして談義する機会を設けました。

開催レポート第4回は「デジタル化が加速するニューノーマル時代のマーケティング」。企業のマーケティング活動は手法の多様化やあらゆる制限、生活者のインサイトの移り変わりなど、デジタルシフトという言葉だけでは表現できないほど、複雑で難しいものになっています。

この時代だからこそマーケターが考えるべき「マーケティング視点」についてお聞きします。

【登壇者】

※紹介文概要はsocial談開催当時の肩書となります(2021/11/24現在)

今改めて考える、マーケティングの役割とは?

ふくま:本セッションでは、マーケティングについてお話をしていきます。このコロナ禍の2年間で、企業のマーケティング活動は大きな変化を求められています。

手法の多様化だけではなく、生活者のインサイトの移り変わりなど、消費者とのコミュニケーションがより難しくなっています。今この時代だからこそ、マーケターが考えるべきソーシャル時代のマーケティングをテーマに、本日4名でお話していきます。

今回、マーケティングという大きなテーマで自由に話を繰り広げていただきますが、まず「そもそもマーケティングとはなにか?」から整理するために皆さまにお話を伺えればと思います。

マーケティングの定義として、AMA(アメリカマーケティング協会)によると、「マーケティングとは、顧客・依頼人・パートナー・社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度・プロセスである」と定義されています。

ですが、これだけ聞くとやはり長くてわかりづらい。みなさんにとっての「マーケティングとは?」を簡単に伺えればと思います。

篠原:いきなり難しいテーマですね。いやだなあ(笑)。マーケティングとは、一言でいうと「ビジネスにおける市場を創る、もしくは再定義するための総合的活動」だと思っています。みなさんどうですか?

中村:良いですね。かっこいいです。

池田:僕、こんなに簡潔には答えられないです(笑)。マーケティングって企業側からすると「売れる仕掛けや仕組み」なのですが、最終ゴールは消費者の方々に買ってもらうこと。なので、「買ってもらえる仕掛けや仕組みを作って、環境変化にフィットさせ続ける活動」と捉えています。

中村:マーケティングを変に定義してしまうとめちゃくちゃ怒られるんですよね(笑)。私の中で一番ピンときているものは、足立光さんが定義された"商売"です。

それを私なりに定義しなおすなら「経営上のゴールを達成するための、顧客とブランドをつなぐ仕組みもしくは場作り」かなと思っています。マーケターはやはり顧客を代表する人たちなので、経営上のゴールを見据えつつ顧客とブランドをつなぐ存在。なので、マーケティングはそこの場づくりなのかなと定義しています。

ふくま:マーケティングを広く「市場作り」「勝ってもらう仕組み」と定義されているかと思うのですが、マーケティング=広告と思っている方もいらっしゃると思います。本日はそこだけではなく、マーケティングにおけるコミュニケーションをより広く捉えてお話を展開していければと思います。

では、より深ぼって伺っていきます。今回「ソーシャル時代のマーケティング」をテーマとした際に、生活者の環境はSNSの普及含めてここ十数年で大きく変容していると思うのですが、その結果マーケティングにどのような変化があったのでしょうか?

池田:今私たちがやるべきことは「マーケティングのソーシャライゼーション」だと思っています。

1945年の終戦から、高度経済成長期に入り、世の中では「良い商品を作ろう」「多くの人に知ってもらおう、買ってもらおう」「消費者の意見を取り入れるためにリサーチをしよう」とさまざま取り組んできた歴史があります。

ですが、2000年頃に「価格.com」や「@cosme」といった口コミメディアが誕生し、2004年にmixiとFacebook社ができて、2005、2006年にブログ、それ以降の2009年からTwitter、Instagramが誕生して。

世の中が目まぐるしく変わり、企業がピカピカの情報を作って、お化粧して……「俺はすごいぜ、買ってくれ」のように発信するコミュニケーションが成立していたのは、戦後55年間の、2000年あたりまでの一時代だったと思います。

今は個人が主役の時代に切り替わり、今まであった広告・PR・商品開発など、ありとあらゆるマーケティングコミュニケーションが、ソーシャルメディア時代に適応していかなければならないと考えています。

ソーシャルメディアをいかにうまく使うか、TwitterやInstagramなど個別のSNSをハックするかはすごく小さい話であって、今まであったマーケティング活動をいかにソーシャルメディア時代にフィットさせていくのかが問われていると思います。

篠原:みんなが主役、という考え方にはとても同意します。今までも「お客様が主役。何を買い、好きになるのかはお客様が主体で決まること」だったのですが、ソーシャルメディアやインターネットが立ち上がったことで、それが顕著に「見える化」して、個人が第三者の意見を簡単に手に取れるようになりました。

マーケティングがソーシャル化しているというより、世界がソーシャル化している。その環境下でマーケティングという考え方やそれに紐づく打ち手をいかに作っていくかということが、池田さんのおっしゃったマーケティングのソーシャル化かなと思っています。

中村:マーケティングって、Market + ing じゃないですか。Marketは「市場」って意味ですけれど、市場ってどんどん変わっていくんですよね。市場の変化に合わせて、やるべきことも変わっていく、というのが前提としてあると思います。

つまり「マーケティングにどのような変化があったか」=「マーケットがどう変わってきたのか」という大きな質問になりますよね。

池田さんが仰ったように、戦後って「良いものを安く作ればいい」としてきた時代がありましたが、その時代が続くと需要に対して供給がだんだん追い付いていくので競合との戦いが始まります。そうして、顧客を理解していこうという、コトラーでいうマーケティング2.0が始まりました。

今の時代のマーケティングでよく言われているキーワードはデジタライゼーションで、個の時代が始まって、企業と顧客の情報差がなくなった点です。

今までは企業側が何か言ったこと「あ、そうなんだ」と鵜呑みにしていた縦の時代だった。対して今は、企業が何かを発信しても、顧客が検索したりソーシャルネットワーク上で調べたりして、自分なりにその情報が正しいかをジャッジする横の時代になったんです。縦の関係性がなくなり、むしろ個人のほうが情報を持てる時代になったと思います。

池田:マーケティングは環境変化にフィットさせ続けることが大切。昔は勝ちパターンが定まったら数年〜10年単位で通用していましたが、今は今日の正攻法が明日には古くなる時代じゃないですか。環境変化のスピードが早いですよね。

僕は、変化の本質はソーシャライゼーションだと考えています。ソーシャライゼーションを実現するためのデジタライゼーションであり、各メガプラットフォーマーがこれだけの人たちをn対nで繋げることが、人々が断片的に持っている情報・口コミがネット上の書き込みに変わる。

その情報が半永久的に残り続けることによって、次にそれを購入したいと考えている人たちの購買意思決定にも大きな影響を与え始めているのがここ20年の話ですよね。今まではそれがなかったわけですから。

中村:仰る通り、デジタライゼーションってイネーブラーというか、サポートするものに過ぎない。デジタライゼーションの結果として、いろんなところでネットワークが発展して、ソーシャライゼーションが起こったんですよね。

時代が変化するにつれてモノへの価値より経験や文脈の価値が重視されるように

中村:あと一点、マーケティングの変化として感じているのが、株主の存在です。企業側からすると株主のことをすごく考えるじゃないですか。結局株主さんからどれくらい投資されるかでその後の事業投資が変わってくるので、そこでも大きな変化があったなと。

リーマンショックによって、さまざまなビジネス・業界で世界が不況に陥りました。リーマンショックが起きた理由の一つには、投資家や企業側が短期集中で利益を求めて動きすぎた結果、中長期目線での経営・利益創出がうまくいかなかったことがある。

そこで、有名なバフェットさんも含めた投資家たちはESG(Environment Social Governance)を大事にし始めたのですが、これが結構大きな変化だったと思います。

マーケティングは経営上の目的を達成するためのものとお話したんですが、今までは経営上の目的が利益だけだったのに対して、サーキュラーエコノミーのような環境に配慮したものにしていかないといけないという観点が出てきました。「パーパス・ドリブン」という考え方も出てきましたよね。

池田:全部繋がっていますよね。

中村:経営上のゴールをもう少し中長期で考えなければいけない流れになったことが変化ですよね。一方で、顧客とブランドの関係が縦ではなく横になっていくので、マーケティングのあり方も変わっている。それがここ最近の変化かなと。

池田:ただ、ESGで「中長期でサステナブルを」と推進する反面、「今期の利益が足りないじゃないか」と言われたら中長期的な目線のサスティナビリティはどこにいったんだよってなりますからね。投資家の動きも、ぶっちゃけESGがここからどうなっていくかによりますよね。

中村:ESG投資ってその点で難しいと感じています。というのも、「その投資が利益につながるの?」って質問が出るのって日本だけなんですよ。アメリカなどの諸外国では、ESG投資は当たり前で、経営上効果があることも実証済みなんです。日本企業には海外投資家のお金がまだ入っていないし、株主さんもそこまで意見してこないので、まだその考え方が浸透していないのかもしれません。

日本のマーケティングってアメリカよりも数年遅れる傾向にあって、たとえば、ビューアビリティの話もアメリカで2013年頃にホットでしたが、日本だと2015年あたりに話題になっている。若干のタイムラグがあるんです。なので、個人的にはESGの考え方はこれから日本で主流になってくるのではないかと思います。

池田:僕も、ちょうど最近「エーザイの統合報告書がやばい」というnoteを書いたことがあるんです。CFOの柳さんがESGに関する88種類のKPIについて、十数年遡ってデータサンプルを収集し、ESGが企業価値として顕在化するまでの「遅延浸透効果」を考慮して、期差比較のために28年分のPBR(株価純資産倍率)との相関関係について重回帰分析を行っている、というのにすごい痺れて。

  ほとんどのマーケティング従事者が興味を持たない「エーザイの統合報告書」がヤバいから読んだ方が良いぞ!という件|池田紀行@トライバル|note このテーマは、あまりウケがよくないと思いますが最近のマイブームなので書きます。 まず、最近ビビビッと来たこの記事。 日本企業の市場価値を高めるESGと財務情報の相関性についての定量的な開示【前編】 非財務資本の強化がもたらす長期的な企業価値向上についてエーザイCFO/早稲田大学大学院客員教授の柳氏との対談を通じて紹介し www.pwc.com PwC Japanの坂野さんと、エーザイ専務執行役CFOにして早稲田大学大学院会計研究科客員教授も務める柳さんの対談記事です。 コンサルファームのPwC(プライスウォーターハウスクーパース)と企業のCF note(ノート)

ここからもわかるように、ESGをやっているという長期的な企業価値を上げることに貢献しているのか・相関しているのかはまだ見えているようで見えていなくて、ようやく見え始めた程度なのではと思います。その相関性の解像度が高くなってくると、「ESGをやっていると時価総額が上がるから取り組みなさい」という風潮になってきますよね。

中村:これって経営上の話だけじゃなくて人の価値観の変化とも関係がありますよね。昔ってお金を稼いで良いものを買い、所有すること自体が良しとされる時代だったけれど、今の若い世代は不況をずっと見てきているので、お金で得られるものや、所有することだけが幸せじゃないよねという価値観がある。

スローライフのような自分の幸せを求めたり、中長期的な環境の良さや社会がより良くあること、ジェンダーのバランスを考えることなどが基軸になっているので、今後商品を選ぶ際もそのような価値観が影響するのではないかと思います。

個(消費者)が力を持ってきて、それに付随してコミュニティもできているので、それが最終的に商品を購買する際の決断に影響を与えていますよね。

篠原:まさにその話を話そうと思っていたところです。ソーシャル化していることに加えて「良いこと(=ソーシャルグッドなこと)を良いと認識し、発信したいという気持ち」も強まってきていると思っています。ソーシャルグッドなことをしていること、それ自体も付加価値になってきているかなと。

グローバルで見ると日本は遅れていますが、コロナの影響もあって少しずつ「消費することで良いことが起こると感じること」自体が価値になり、豊かさに繋がると感じています。

ふくま:お金やモノ自体の価値って下がってたりするんでしょうか?

池田:人の幸福観・家族観・仕事観って、結局相対的なもので、さまざまな情報が入ってくることで時代と共に変化するじゃないですか。どんな情報に触れていくのかによって人生の価値観は変わりますが、昔は情報がとても少なかったので画一的だったんです。

それに対して、現代はこれだけ個人と個人が繋がってさまざまな価値観が生まれ、共有されているので、自分自身の幸せを実感し、考え、見出すのが、昔と比べて自由になっています。また同時に、選択肢がありすぎて幸福とはなんなのか?を判断するのが難しい時代になってきていますよね。

中村:二極化していますよね。昭和時代は、家・車・家電などを所有すること自体がステータスだったんですよ。現代において、所有することは過程であり、むしろその先にある経験が重要視されています。シェアリングエコノミーがその例だと思うのですが、昔に比べてモノ主義から経験主義になっているし、その経験をソーシャルでシェアすることも増えましたよね。

ふくま:振り子の法則的な感じで、モノの所有よりも経験の方が価値があると思うのですが、さらに10年〜20年経ったときに逆転することはあるのでしょうか?

池田:僕はないと思いますけどね。

中村:僕もないと思います。

池田:どんどん成熟化・高度化していくので戻ることはないと思います。不可逆な変化なのかなと。

中村:CtoCマーケットであるメルカリさんみたいなマーケットがなくなるかという問いと、多分同じだと思います。メルカリさんってなくならないと思うんですよね。経験自体がやっぱすごい大事っていうのは価値観的にもう変わらないから。今からすごく「モノが欲しい」って思う価値観が主流になるかと言われたらちょっとわからないっていうのが僕の考えですね。

池田:もうあと5年〜10年ぐらいで自分たちの国、ないしは世界において「私たちの幸せの変数とはなんだろう」と、それぞれの人たちが成熟しながら考えていくと思います。その過程において必要なものには時間やお金を使うけれど、そうじゃないものに関してはあまりお金や時間も使わないという意思決定になっていくと思います。おそらく、モノはあくまでも手段になっていくのではないでしょうか。

中村:ここ数年、多様化が進みましたよね。特にコロナ禍において、リモートワークも含めていろんなライフスタイルを持つようになりました。特に日本においては、同調圧力があるので、みんな同じようにモノを買って同じような生活して同じように価値観を持たなきゃいけないっていうのが前提にあった気がするんですね。

私は前職、P&Gという会社にいたのですが、そこでUSJの数学マーケティングで有名な森岡さんが提唱したモデル(手法)を使って需要予測する、ということをずっとやっていたんです。

そのときに学んだことは、日本のマーケットはそのモデルがハマる確率がとても高いということです。他国に比べて、消費者が同じものを見て同じような反応をするので、モデルが予測しやすいっていうマーケットなんですよね。昔からよく言われていたことですが、かなり日本は同一的だったんです。

ここ数年でそれが一番変わったなと思っています。人によって価値観が違っていて、違うこと自体がOKっていうコンテキストに変わってきたと思います。その価値観が根付いた以上、今さら全員同じように所有欲があって当然、という価値観には戻らない気がします。

篠原:すごい。みなさん断固として戻らないって意見ですね。

池田:僕は物欲の権化として、人生を終えますけどね(笑)。

一同:(笑)

メタバースはリアルやソーシャルとの対局概念ではない

ふくま:今、マーケティングの変遷に加えて、生活者の価値観の変容というお話があったと思いますが、逆にその中で変わらないものもあるのかなと思っています。

「ここの部分って本質的に変わってないよね」みたいなお考えがあればお伺いしたいです。

篠原:結局人間は、触れる・味わうといった、マズローの五段階欲求でいうボトムのところは絶対変わらないなって思っています。それがよくわかった例がZoom飲みが流行らなかったことだと思います。触れ合いたい、目の前の空気感を感じたい、温度感を感じたいから、Zoom飲みは流行らなかった。その五感で感じる大切さは絶対に変わらないからこそ、そこの価値の判断軸もこの先基本的には変わらないかなと思っています。

池田:これはメタバースの話ですね……!

中村:僕の考えも篠原さんとすごく近いですね。人間、変わらない部分も結構いっぱいあるだろうなと思っています。まず人類の本質はたぶんそんなに変わらない。

「行動経済学」って最近マーケティング業界で流行っているじゃないですか。あそこで言われているような原理ってそんなに変わらない気がするんですよね。例えるなら、人の脳であるOSは変わらないけれど、社会文脈によって価値観、すなわちソフトウェアが変わる、みたいな。

脳からの信号が出たときにどれに反応するかは少し変わるけれど、基本的に脳の信号に対して反応する、という仕組みはあまり変わらない。もともとマーケティングって人を動かす・理解してもらうという要素があると思うので、過去のやり方が全く効かなくなるわけではないんです。

基本的には効く手法があるものの、時代のソーシャル化に合わせて、少しずつツイストをかけていかなければならない、というのが私の考えです。

池田:僕も人間の本質的な欲求は変わらないと思っています。ただ、それを満たす方法や、媒介とか手段が変わっていってるだけだと思うんですよね。

人と人は繋がりたがるものであり、誰かから褒められて承認されたいものであり、自分の夢や目標を叶えたいものである。人との繋がりや繋がり方によってその実感値は変わると思いますけれどね。

ふくま:メタバース的なところでいうと、そこはやはり代替できないものなのでしょうか?

中村:メタバースでは基本的に今までインターネット上でしか体験できなかったものが、いわゆる没入感を持って体験できるようになるということ。インターネットに繋ぐ際の環境が違うだけでコンテンツは同じなので……。

池田:メタバースの話になると、みんな0か100かって言い出しちゃうんですよね。リアルとメタバースを比較したら、そりゃあリアルのほうが良いこともあるわけで。それでも、今やっているZoom会議はメタバース内でできたほうが絶対に良いと思うし、遠方にいる人同士で映画を観ながらワイワイできるならそれも絶対に楽しい。メタバースの良さとリアルの良さはグラデーションのはずなのに、なぜどっちかに決めようとするんだろうって思いますね。

中村:メタバースでは教育関連がすごく変わるだろうと思いました。マーク・ザッカーバーグが公開したメタバースについての映像の中で、娘さんとそのおばあちゃんが一緒に星のビデオを観ていて土星が出てくるというシーンがありました。

今だと土星のことが気になったらGoogleで検索してWikipediaにたどり着くという過程をたどりますよね。でも、メタバースなら、バーチャル空間上で土星をタップすると、そこにまつわる情報が出てくるんです。

そうなるとやっぱり没入感が全然違うし、学び方が全然変わりますよね。しかも最終的には、それをInstagramで「このコンテンツ見て」って更新できるわけです。つまり、メタバースもソーシャル化と繋がっている。いろいろな人がそのコンテンツに触れられるという意味では、ソーシャルVSメタバースではないんですよね。

「伝える」よりも「伝わる」広告のほうが価値がある

ふくま:話が盛り上がってきましたね。まだまだ深ぼってお話を伺っていきたいと思います。ソーシャライゼーションが起こっていく中で情報格差がなくなって、価値観も多様化していますよね。その中で、今後企業が生活者とどういうコミュニケーションを取っていくべきなのかを具体的な手法に限らずお伺いしたいです。

池田:結局は、どうしたら自社に興味を持ってもらえるのかにフォーカスするのが良いかと思います。僕もそうなりがちなのですが、企業のマーケ・宣伝・広報の方々って毎日自社商品のことを考えているので、消費者がマーケティング空間の中に生きているものと錯覚しがちなんですよ。

ですが、一般的な消費者は普通に社会の中で生活しているだけで、企業やブランドのことを考えながら生活しているわけではない。個人はほとんどのことに興味がない中で生活をしているので、その中で自社に興味を持ってもらうフックを作るにはどうしたらいいか?という、消費者感覚で考えることが大切だと思います。

まだ日本を代表するような伝統的な大企業のマーケティングコミュニケーションの考え方は「いかに伝えるか」っていうところにバキバキに集中してしまっている。「出たよ! 良いよ! 知って! 買って!」と、「伝える」気満々の姿勢なんですが、伝わってなかったら全く意味がないじゃないですか。

これまでのような双方向ではない一方向的なマーケティングコミュニケーションの作法や考え方はたぶんもう通用しない。「うまく伝える」のではなく、「伝わるように伝える」。ただ「伝える」から「伝わる」への見方が変わるまで、あと5年くらいはかかるのだろうなと思います。

篠原:「伝えねばならぬ」っていうバイアスを外すのに、結構時間がかかるんですよね。

池田:「伝えたい!」って気持ちの先行がすごく強いですよね。

篠原:今回のイベントの視聴者さんには企業SNSの中の人みたいな方も多いと思いますが、「伝えなきゃいけない」「投稿しなきゃいけない」「発信しなきゃいけない」っていうKPIを置いてしまってるからこそ、うまくいかない現実があるのではないかなと。

今の池田さんのお話も踏まえると、やはりソーシャルメディアはみんなが主役であり、企業アカウントだけが主役ではないんですよね。今起きていることにどうしたら興味を持ってもらえるだろうかと考えると、伝えるだけが手法ではないと思います。

池田:そうですよね。競合他社と比べて「どっちの方が口コミ多いの?」みたいな話とかってぶっちゃけあんまり意味がなくて、世の中全体の中で自社商品がどれだけ興味を持たれているかのほうが100万倍重要だと思っています。競合に勝っていたって、業界全体で負けってこともあるわけですから。

少し話は変わりますが、アラブの春しかり、Fearless Girlしかり、あとはBlack Lives Matterしかり、あれらは別に企業が仕掛けたものじゃないですよね。一人のユーザーが声を上げて、それが社会的なうねりになり大きな影響力を持っていった。

ああいったものは、個人の力によって引き起こされるもの。デジタライゼーションにおけるソーシャライゼーションによって個人が大きな影響力を持っているので、企業のマーケティングコミュニケーションはどうあるべきなの?っていう話に繋がると思っていますす。

SNSはあくまでもプラットフォームだし、ソーシャルメディアはSNSを含めた個人の、個人による、個人のための場。企業はそういった大きなうねりとどう向き合っていくのかを考える必要があります。今までやっていた広告のように「広く告げる」のではなく「広がるように告げる」のが広告のソーシャライゼーションなのだと思います。

PRなんかも、SNSをうまく使っていきましょうって話ではなく、個人が主役の時代においてどうあるべきなのか考えるのが大切です。「PRのSNS活用ではなく、ソーシャルメディア時代におけるPR(=PRのソーシャル化)」について考えるべきです。交通広告がコロナ禍で影響力が小さくなったと言われていますが、今交通広告を出稿している企業の中には、いかに「写真に撮られたり動画に撮られてSNSで拡散されるのか」を期待している起業も少なくないわけで。これも、一つの交通広告のソーシャライゼーションですよ。

これからは影響力の根幹が個人に移行した時代において、今までやっていたことをソーシャルメディア時代にどうフィットさせるのかという本質的な会話を始めるべき。そう考えると、多くの企業はまだその準備段階なのかな…と思います。

中村:世の中のモノには、認知されるだけで購入されるカテゴリーがあります。認知されて売れるようなカテゴリーなら認知のためのマーケティングを考えれば良い。

ただ、それ以外の商品やビジネスでは認知の先が重要です。現代のように、個人が力を持っている場合は、認知して買う前に調べるという工程が挟まるからです。調べてみて企業側のコミュニケーションに嘘がないと思ったら購入して、その商品が良かったらソーシャルで広める。

その一連の流れがあるので、「認知してもらってからどのくらいの人が購入してくれるのか」と「購入してもらってからどのくらいの人が推奨してくれるのか」の二軸を追わないといけません。そう考えると、今までのように企業からのコミュニケーションを一方的に続けるのはナンセンスなんです。

消費者から出てくるであろう質問や疑問に答えるために、toA(対個人)のインタラクションが必要。ソーシャル時代なら消費者同士がお互いに疑問を解決してくれるので、その場を作るのが企業としては大切ですよね。認知だけで購買に繋がっておしまい、なら良いのですが、その後の口コミまで繋げていきたいのであれば、よりソーシャル化が大事になると思います。

篠原:今の話、少し事例をお話したほうが視聴者の方もご理解いただけるかなと思うので実例をお話しますね。

このソーシャル時代に流行っている定型マーケティング手法の一つに、飲食や小売だと「総選挙」というものがありますす。マクドナルドさんを皮切りに主流化したと思っているんですが、売りたい・推したい商品を事業会社側が決めるのではなく、お客様に決めていただいく。たとえば、飲食でいうと「それがどうおいしいのか」をお客様に語っていただくやり方です。

それぞれの消費者が選んだ商品に対して、選んだ理由やおすすめするポイントなどを会話できるような仕組みを作る。「これが好き!」「買って食べてこうでした!」「おすすめ!」のようなコミュニケーションをお客様に自由に言ってもらうために、企業側で箱だけ作ったっていうのが、とてもわかりやすい形かなと思っています。

「単純にこの商品を売りたいです!」という伝え方ではなく、「あなたはこの番組が好きですか? なぜ好きなんですか?」を好きに語っていただいて、お客様側により主役になってもらえる施策。そういうやり方が今後、「伝えなければいけない」というバイアスを外すと増えてくるのではないかと思います。

中村:昔は、企業側が「この商品はこういうものですよ」って決めて打ち出していましたが、今は総選挙のようなシステムを提供して、価値は個人に判断してもらう。

他にも、以前オイシックスさんが「オイシックスでおいしい食卓」というテーマでハッシュタグキャンペーンをされていたことがあったんです。おいしい食卓の定義や、経験は人によって違います。

ハッシュタグキャンペーンを介すことで、いろいろな価値観に触れることができて、食卓の価値が向上していくんですよね。こういう施策はうまいケースだなと思います。

池田:脳科学者の方が「人間の生活の85%は自動運転だ」と言っているくらい、私たち人間は習慣で動いているわけじゃないですか。そういった生活の中で企業側ができることは、とにもかくにも「自分ごと化」。

認知と理解促進はお金で買える。これらは広告を出稿することで解決ができると思っています。ですが、やはり興味喚起や、自分ごと化や、「行きたい」「食べたい」「してみたい」という目的を作ることはお金では買えない。興味がない層にいくら広告を届けても変わらないですからね。

そう考えると、やはり文脈を開発したり、話したくなるような場・企画・仕掛けを提供したりしないと、自分には関係ないという「自分ごと化の壁」を超えていけないんですよね。

第一想起されない限り、これからの企業は勝てない

ふくま:残り時間があと5分ほどになってきたので、ラップアップに入っていければと思います。最後、今後マーケティング市場が5年後、10年後でどう変わっていくかという、今後の展望・予測などをお聞かせいただきたいです。

篠原:今後、5年10年経ってどんどんテクノロジーが発展していくと、さらにチャンネルの分断化が顕著になると思っています。それにより、人の価値観の多様性やバリエーションはこれからも増えていく。

そのため、これから事業会社側に必要なのは、本当により強い選択と集中かなと思っていて。自分たちのお客様がどこにいらっしゃって、そこでどんな文脈でモノを語っているのかを知る。それを基に早期に選択と集中をすることで、ブレークイーブンポイントを超えていけるような点を見極める必要があると思います。

池田:突拍子もない発言かもしれませんが、EC化しているカテゴリーとそうじゃないカテゴリーがあるものの、僕はやはり、いずれAmazonが格安のスマート冷蔵庫を出すんじゃないかと思っていて(笑)。Amazon Goのような実験もありましたし。

ここで起こる革命は、定期購入の爆発的な普及です。買い物には「楽しい買い物」と「楽しくない買い物」の2つがあると思っていて、生活必需品の買い物(楽しくない買い物)は、どんどん定期購入化していくと思うんです。Amazonは、顧客IDごとに、さまざまな商品カテゴリーにおける嗜好をわかっている。私の場合、シャンプーやトイレットペーパーやティッシュなど、Amazonが「あなた、いつもこれでしょ?」ってことをわかっているんです。

そのとき、「私はマヨネーズは絶対キューピーが良いのだ」なのか「そのときにAmazonに卸しているメーカーの中で一番安いメーカーの製品が自動発注されるほうが良いのだ」のように選択できる機能があったらどうでしょう。

「マヨネーズはキユーピー派!」なのか、「マヨネーズは最安値の商品で良し」なのかによって、半永久的にマヨネーズが定期購入されていく。消費者は、面倒なことはどんどん「委託」するようになっていくので、そんな未来がくることもあながち無い話じゃないと思っていて。

そういう時代がカテゴリーによっては相当進行していくのだと思っています。チャネルパワーが小売りの大規模チェーンストアに移っていて、ECはAmazonの一人勝ちであるこの時代。消費者の購入の意思決定の「委託先」がAmazonに移行するんですよ。

何十万、何百万の人たちの購入の意思決定がAmazon側のレコメンデーションエンジンでされて、そのときの最安値のものと、「このカテゴリはこの商品じゃなきゃ嫌だから多少高くてもこっちの商品を買い続ける」というもの、どちらかしか生き残れない状態になるんです。

つまり、最初に思い出してもらえるブランド、又は、絶対にこの商品が良いと思われるブランドか、最安のブランドしか勝てない時代になってくるんじゃないかと思っています。そう考えると、篠原さんが言うように、選択と集中が大切。とにかく真っ先に思い出してもらえるブランドにならないと勝てないんじゃないかなと。

二番手、三番手が生き残れていた時代から、一位か最安値のものに絞られていく。最安値は一つしかないので、凄まじい骨肉の争いのレッドオーシャンじゃないですか。だから僕は今、Amazonがスマート冷蔵庫を売り出す前に第一想起ブランドを獲得しておかないと大変ですよって焚きつけております(笑)。

篠原:Amazonからスマート冷蔵庫が出たら、本当に予言者ですね(笑)。

池田:第一想起のブランドにならないと生き残れない。そのためにはフリークエンシー高く、ロングエンゲージメントしておかなきゃならない。SNSの活用ではなく、ソーシャルメディア時代のマーケティング(マーケティングのソーシャル化)に取り組むべき、と思っています。

中村:弊社としては、まずメタバースがこれからの未来で必ずきます。頑張ります(笑)。

また、マーケティング全体で見たとき、短期的に売上だけを求めるマーケティングを継続した場合、消費者や顧客から嫌われるのだろうなと思っていて。「リターゲティング広告が嫌だ」「もうマーケティングなんかやめてよ」という流れがきてしまうのが一番バッドエンドなシナリオだと思います。

逆に、中長期的に顧客との関係性を繋ぎながら、コミュニティを作りファンになってもらう方向に進んだら、それはマーケティングなのか……というと、これまた難しいですよね。だから、その場合はマーケターの定義が少し変わっていくような気もしています。コミュニティのような場を作る人、提供する人、ファシリテーターのような、そういうフェーズになるのかなと。

今のままのマーケティングがそのまま残るのかという点に関しては、個人的にも一番考えている議題です。今マーケターとして働いている人たちの動き方、顧客・ユーザー・消費者が抱くマーケティングへのイメージなどによってその答えが変わるので。まだわからないですが、未来は楽しみです。

ふくま:ありがとうございます。お腹いっぱいならぬ頭いっぱいという盛りだくさんのトークでした。本セッションはこれにて締めさせていただきます。中村さん、池田さん、篠原さん、誠にありがとうございました。

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